記念講演会
進化と戦争から
再考する地域研究
2026 5.15
[ 金 ]
14:10~16:20
場所:ホテルメトロポリタン仙台(4F)
地域研究と対外政策研究 — 東アジア国際関係史からの視点 —
昨今、国際秩序が大きく動揺している。中国の存在、ロシアの行動、そして先進国の代表であったはずのアメリカの変容などがその背景にある。他方で、新興国などとも言われる地域大国が国際政治で果たす役割が大きくなり、“foreign policy”を行う主体として注目されている。しかし、それをいかに捉えるのか容易ではない。
従来農村や経済社会を主たる対象としてきたアジアなどの非先進国の地域研究は、いかにして対外政策を研究するのか。無論、従来から非先進国も対外政策研究の対象だ。だが、あくまでも「開発」に関連する経済協力などの面からの考察が多く、また国際政治研究、外交研究の分野では基本的に先進国中心、大国中心であり、非先進国は主要なアクターとしては扱われてこなかった。そして、理論的には先進国の外交研究で蓄積された方法論が用いられてきた。先進国で「時代遅れ」と言われる外交史の分野でさえ、中国やトルコなどの特定の国が対象とされることはあっても、外交文書公開の不足から非先進国の研究は依然不十分だ。
このような課題をいかに克服すべきか。まず、対象となる国を主体的に位置付け、それを主語にして研究することが必要だ。次に、これまでの地域研究が重視してきた、地域の社会経済構造、重視されてきた思想や歴史など、地域研究の成果を踏まえた、地域の文脈を生かした分析が必要なのではないだろうか。
川島 真
東京大学 教授
アジア政治外交史
プロフィール
東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は東アジア国際関係史、中国・台湾の政治外交史。 近現代中国外交史および日中関係史を軸に、中国・台湾・日本を含む東アジアの国際秩序形成とその変容について、歴史的視点と現代政治分析を横断しながら研究に取り組んでいる。とりわけ、中国の対外認識、ナショナリズム、台湾問題、戦後東アジアにおける主権・記憶・歴史認識の問題に関して、多くの実証的・理論的研究を発表してきた。学術研究にとどまらず、現代中国・台湾情勢についてテレビや新聞などメディアでの発信や政策的議論にも積極的に関わり、東アジア国際政治を理解するうえで重要な論点を提示し続けている。
主な著書に下記のものがある: 川島真「グローバルサウスから見た戦争と秩序」(『外交』93号、2025年9月、https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/gaikou/vol93.html) 川島真·鈴木絢女·小泉悠編著、池内恵監修『ユーラシアの自画像―「米中対立/新冷戦」論の死角』PHP、2023 年 川島真・遠藤貢・高原明生・松田康博編著『中国の外交戦略と世界秩序──理念・政策・現地の視線』昭和堂、2019年
対立の二面性:ユーラシア大陸のディープ・ヒストリーと現代アフリカが明らかにする社会秩序の進化
争いは、人類史の深層から現代に至るまで、繰り返し現れてきた人間社会の特徴である。その規模、強度、制度的形態は地域や時代によって大きく異なるが、争いはしばしば、生命の喪失、強制移動、資源の枯渇、信頼や協力関係の崩壊といった深刻な負の帰結と結びついている。しかし一方で、人類学、歴史学、政治経済学における長年の研究は、争いが社会的・政治的組織の形成において果たしうる役割のパラドックスも指摘してきた。集合行為の研究者は、外的脅威が内部の協力を促進しうることを論じ、また国家が拡大する過程では、しばしばその領域内の争いを抑制しようとすることが示されている。
本講演では、こうした二面的な視点を、対照的な二つの実証研究の「レンズ」を通じて検討する。第一に、約三千年にわたるユーラシア史を対象とする大規模比較分析を用い、争いが他の要因とともに、いかにして大規模な複雑社会の出現・拡大・持続を可能にした制度や文化形質の発展に寄与してきたのかを検証する。次に、ケニアの現代牧畜社会に目を向け、自然資源へのアクセスをめぐる集団間の争いが集合行為をいかに妨げているかを検討する。進行中のフィールド調査および定量的研究に基づき、この文脈における争いが信頼を損ない、統治を分断し、共有放牧地の持続可能な管理の取り組みを制約していることを示す。
これら二つの事例を総合し、社会秩序の長期的進化に関する知見と、地域固有の文化的・生態的条件への理解とを結びつけることが、当該集団における集合行為の改善に向けた現代的取り組みに示唆を与えうることを論じる。最後に、こうした視座がいかにして地域社会がより公正で包摂的な制度を設計することを助け、集団間の協調を改善し、共有資源および自然環境をより持続可能に管理するための研究へと展開されつつあるのかを展望する。
Thomas E. CURRIE
トーマス・E・カリー
エクセター大学 教授
文化進化論
プロフィール
専門は文化進化、人間行動生態学。University College London(UCL)において政治形態の通文化比較研究により博士号(Ph.D. in Anthropology)を取得。東京大学およびUCLで博士研究員を歴任したのち、英国エクセター大学に着任。現在、同大学生態・保全生物科学センター教授。これまで、ユーラシア大陸を対象に、社会の複雑化の過程において闘争が果たした役割を人類史的スケールで比較検証するなど、進化的アプローチから、社会制度の形成、協力行動、社会的不平等といった現象の定量的比較研究に取り組んできた。近年は、環境変動下における牧畜社会のレジリエンスをテーマとしたフィールド研究にも取り組み、人類社会のマクロな比較研究と地域研究のフィールドワークを統合することで、人類社会の多様性に関する国際的な研究を先導している。
主な著作にCurrie, T. E., Greenhill, S. J., ..., & Mace, R. (2010). Rise and fall of political complexity in island South-East Asia and the Pacific. Nature, 467(7317), 801-804、Turchin, P., Currie, T. E., Turner, E. A., & Gavrilets, S. (2013). War, space, and the evolution of Old World complex societies. Proceedings of the National Academy of Sciences of USA, 110(41), 16384-16389、Currie, T. E., Borgerhoff Mulder, M., ... & Waring, T. M. (2024). Integrating evolutionary theory and social–ecological systems research to address the sustainability challenges of the Anthropocene. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 379(1893)等がある。
(4月26日(日)まで)