東北大学東北アジア研究センター
創設30周年記念講演会・シンポジウム

開催趣旨

進化と戦争から再考する
地域研究

高倉浩樹

一般的に地域研究は特定の地理的広域や歴史文化的に関連する空間を対象に学際的にとりくむ社会調査研究であると定義される。多くの場合、歴史学・人類学・政治学等が中心になって行われ、例えば東南アジア研究、アフリカ研究、スラブ研究等が行われてきた。

1996年に発足した東北アジア研究センターは、冷戦崩壊後による国境を越えた国際協調が可能となった時代に設立された。制限あるかたちでしか渡航ができなかった旧ソ連や中国で現地調査ができるようになり、当時予測された環境・経済開発・文化交流などに関わる諸問題を学際的に解明することがミッションだった。

過去30年近くにわたる調査研究の蓄積のなかで、我々は、環境と文明の相互作用としての地域研究という考えに至った。その上で三つの柱「人類史的なタイムスケールによる地域理解」、「大国の統治と民族的多様性からみる地域」「越境する多様な問題の理解と共有」を設け調査研究を進めてきた。東北アジア研究センターの地域研究としての特徴は、自然誌を含む人類史的アプローチをもっていること、また中国とロシアというこの地域における歴史的な大国と民族的多様性の関係を視野に入れている点である。

本シンポジウムでは上記の前者二つの柱のもとで蓄積されてきた研究を起点に広がるテーマで考察することを目指している。その一つは自然誌を含む人類史である。この分野を担う我々のセンターの研究者とくに生物学等の自然科学者は「進化」概念を用いている。彼らは我々が身近に感じる「自然」の起源的プロセスを解明しそこに文化・社会の関与が鍵となっていることを示唆してきた。重要なのは、この考えは多くの人文社会科学者が批判的想像する社会進化論ではなく、ダーウィン進化論であることである。所与の時間・空間における環境と遺伝子の相互作用によって生じる進化はそこに目的はなく、結果だけが存在し、価値中立的なのである。こうした視座は、地球進化学などの自然科学は勿論のこと、進化心理学や進化経済学のなかに取り込まれ、社会科学のなかでも一定の広がりを持っている。この「進化」概念を用いて地域研究を捉え直すというのが本シンポジウムの趣旨の一つである。そこでは人間社会の変化について、観念・行動・制度だけではなく、歴史軸を含む広い意味での環境との関係のなかで捉え直す契機が潜んでいるからである。

もう一つは、「戦争」概念を用いて地域研究を再考することである。このことは、上記の柱の一つである研究テーマ・大国統治と民族的多様性と関わっている。1990年代以降に形成された現代的世界秩序は、2010年代末からのコロナ禍に関わる社会システムの危機、ウクライナ・ロシア戦争やパレスチナ・イスラエル戦争などによる紛争によって不可逆的に変化した。センターの発足当時世界の平和で協調のグローバリズムは、紛争と対立のそれへと変化したからである。それは、国家と民族あるいはそれ以外も含めたマイノリティとの関係に大きな影響を与えている。これらに対し、歴史やグローバルな比較を含めた様々な視角で検討することで新しい東北アジア地域を展望したいのである。

「進化」概念と「戦争」視座は、従来の地域研究にはなかったあるいは前景化されたものではなかった。東北アジア研究からこの二つを考え、その総合化にも挑戦することで、斬新な方法論的視座を獲得し、新たな地域理解の展望を開きたい。

東北大学東北アジア研究センター長 高倉 浩樹

参加登録
(4月26日(日)まで)