2022.08.23

北海道釧路市阿寒町での現地調査(小坂田)

 2022年8月18日から2022年8月23日にかけて、北海道釧路市阿寒町において、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(以下、アイヌ施策推進法)の交付金事業の実施状況に関する調査を行いました。

 執筆者:小坂田 裕子(中央大学)

 調査では、国及び地方自治体の機関及び当事者への聞き取り調査を行い、次のことが分かりました。
第1に、釧路市では元々はアイヌ側からの要望にも関わらず、福祉を除いてアイヌ政策がなされていませんでしたが、アイヌ施策推進法により交付金事業についてアイヌ関連団体と協力して積極的に動くようになったようです。その意味で同法は、地方自治体を動かす起爆剤のような役割を果たしていると言えるでしょう。ただし、それは役所のやる気と力量によるので、地域差は出るでしょう。
 第2に、アイヌ施策推進法の交付金事業については、アイヌの方々の間で意見が分かれているように思いました。交付金事業により仕事が増え、収入が増えた人たちは、当然ながら支持し、継続を願っています。その一方で、恩恵を全く受けていない人たちもいて、交付金事業をめぐってアイヌの間で格差が開いているのでは、という印象を受けました。こうした格差が分断を招かないか、危惧され、格差の解消が今後の課題と言えるでしょう。

(写真:アイヌ施策推進法の交付金事業として改修されたオンネチセ)

 アイヌ施策推進法は、アイヌが居住する地域の文化、産業、観光を、交付金事業を通じて活性化することで、地域全体を豊かにすることを目的としています。阿寒町は観光で成り立っている町であり、アイヌ施策推進法の恩恵を実感しやすい地域といえるかもしれません。しかし、アイヌが居住する地域は必ずしも観光に基盤をおくものばかりではありません。そのため、今後は、観光におかれる比重が高くない地域における実施状況も調査し、アイヌ施策推進法の果たしている役割と課題を全体として明らかにする必要があります。