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東北アジア研究センター東北アジア民族文字・言語情報処理研究ユニット第 1 回研究会
ワークショップ 777(07年7月7日)
モンゴル語のローマ字転写と翻字に関する諸問題

[趣旨]
 モンゴル語の文献資料を利用・研究する際に、モンゴル語をローマ字転写することが広く行われています。これはウイグル式モンゴル文字の文献に限らず、パスパ文字、漢字、アラビア文字、トド文字等々の資料においても同様で、それぞれのローマ字転写方式が考案され、利用されて来ました。モンゴル学の伝統の中で、多くの研究成果はローマ字転写の基礎の上に成り立ち、それを利用することによって成しとげられてきたことから、モンゴル語文献資料の研究にローマ字転写が存在しない状況は考えられないと言っても過言ではありません。
 このように、モンゴル研究者にとってローマ字転写はあまりにも当然過ぎる存在であり、通常はその存在理由や意義を意識することはないかも知れません。ところが、実際にモンゴル語の文献資料を扱って研究を進めてみると、既存のローマ字転写や翻字の原理原則が必ずしも明確でなかったり、既存のどの方式でもうまく処理できない問題に突き当たったり、その有効性・実効性に疑問を抱いたり、多くの困難に直面します。そうした場合、それぞれの問題に個々の研究者が自分なりに解決をつけている場合もあるでしょうし、あるいはこうした問題に蓋をして、とりあえず作業仮説として既存の転写方法によるか、それに多少の修飾を施して使っている場合もあると思います。
 このような状況がモンゴル語文献・資料を研究する者に共通の、しかも基本的かつ重要な問題であるという認識の上に今回のワークショップを企画します。ワークショップでは、これまでにモンゴル語の文献資料を扱って研究を進めてきた研究者からそれぞれの立場で発表・報告をいただき、改めてモンゴル語資料のローマ字転写と翻字使用の目的、特徴、あり方、問題点を整理し、研究者間の経験と問題意識を共有した上で意見交換を行います。

日時:2007年7月7日(土)14:00〜18:00、8日(日)10:00〜12:30
会場:東北アジア研究センター4F大会議室
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プログラム

7月7日(土)14:00〜18:00
・趣旨説明(5分)  栗林均(東北大学)
・報告(発表25分、質疑応答10分)

■「モンゴル文語のPoppe(1954)式ローマ字転写の特徴と問題点」栗林均(東北大学)
[概要]
N.Poppe, "Grammar of Written Mongolian"(Wiesbaden, 1954)で採用されているモンゴル文語のローマ字転写方式は、欧米をはじめ日本でも最も広く用いられている転写方法といえる。発表では、この転写方式の特徴を整理し、その理論的な裏づけと有効性について検討する。検討に際しては、次の点を議論の出発点とする。
1)古典期の規範的なモンゴル文語を扱う限りは、ローマ字転写形から元の字形を完全に再現することができる。
2)古典期の規範的なモンゴル文語以外の文献や、規範から外れた綴り、誤記等に対して対応は困難である。
3)同じ字形の文字を異なったローマ字で転写する(例:t/d o/u)根拠は現代語(ハルハモンゴル語等)の発音にあると考えられる。
4)上の特徴により、字形だけを頼りにローマ字転写することができない部分が少なくない、等。

■「Ligeti式ローマ字転写とウイグル式翻字について−前古典期モンゴル文語の転写と翻字−」松川節(大谷大学)
[概要]
13〜15世紀にウイグル式モンゴル文字で書かれたモンゴル語資料は,古文字学的特徴と正書法の双方において17〜18世紀に成立した古典期モンゴル文語の規範から逸脱する点を有するため,ポッペ式ローマ字転写法では元の字形を完全には再現できない。そこで考案されたのがリゲティLigeti式転写法である。その特徴は,古典期モンゴル文語の正書法が基準とされ,そこから逸脱する表記があれば識別符号付きのローマ字で翻字(TRANSLITERATION)として表すという精密なものである。しかしながら,古典期モンゴル文語正書法の理解が前提とされるため,専門研究者以外には使いづらいという面があった。
 報告者は,13世紀のウイグル式モンゴル文字資料「少林寺聖旨碑」を解読した際に,リゲティ式転写とともにウイグル式翻字を付し,元の字形を一目で再現できるようにしたことがある。ウイグル式翻字はアラム文字の翻字法に遡るもので,ソグド文字やウイグル文字の翻字に使われてきた。モンゴル研究者のあいだでは普及していないが,同じ系統のウイグル式モンゴル文字の翻字に利用しても齟齬は生じない。
 本報告では,リゲティ式転写とウイグル式翻字を紹介するとともに,それらの有用性を再検討したい。

■「アルタンハーン伝、オロンスム文書、ハラホト文書研究の経験から」井上治(島根県立大学)
[概要]
報告者は、これまで17〜19世紀のモンゴル文字写本(『アルタン=ハーン伝』など)、17〜18世紀の出土白樺樹皮文献(タヴァグチン=オラーン白樺文書、ハルボハ白樺文書)、17世紀出土紙文献(オロンスム文書)、13〜14世紀の出土紙文書(ハラホト文書)を転写あるいは翻字してきた。キャリヤーに文字を書き付けた時代、キャリヤーの材料の違い、保管・保存状況の違いにより、文字の様態は一様でなく、そこから取り出すことのできる情報も様々である。今回の報告では、これまでPCを用いておこなったモンゴル文字資料の転写方法のいくつかを批判的に回顧し、研究者間で共有可能な方法の構築に向けての議論の材料を提供したい。具体的には、報告者はキャリヤー上のどのような情報を転写により表現しようとしたのかを整理し、その過不足の有無を検討したい。また、転写(表現)の方法が一定していない場合を取り上げ、PCでの処理により適した方法を考えたい。

■「アラビア文字表記モンゴル語のローマ字転写と翻字」斎藤純男(東京学芸大学)
[概要]
字写(トランスリタレーション)は原理的には機械的に行えばよいものであるが、手書きのアラビア字の場合、書かれた語が何であるかわからないとむずかしいことがあり、またわかっても個々の字を決定しにくいことがある。音写(トランスクリプション)は書かれた言語の音韻体系を考察した上でないと行うことができないが、特に母音体系については文字の上で区別の少ないアラビア字からだけでは不明な部分が多く残る。その不明な部分をどう明らかにし、どう音写したらよいか、その可能性を論じる。
・コメント(30分)角道正佳(大阪外国語大学)
・総合討論(30分)

○懇親会

7月8日(日)10:00〜12:30
・報告(発表25分、質疑応答10分)

■「『中国蒙古文古籍総目』編集中に検討されたモンゴル語ローマ字転写の問題」徳力格尓(内蒙古大学)
■他

・総合討論

●研究発表・報告募集
「モンゴル語資料のローマ字転写と翻字」に関するテーマで、発表・報告20分、質疑応答・討論10分の予定。テーマは「モンゴル語文献資料の電子化利用、データベース利用」に関するものであってもよいが「ローマ字転写・翻字」に関係していることが望ましい。
 これらの発表・報告、議論、資料等をまとめて東北アジア研究センターから公刊する可能性がある(出版を確約するものではない)。
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参加申し込み、問い合わせ
E-mail:hkuri@cneas.tohoku.ac.jp(メールには、「Workshop777」とお書きください)
〒980-8576 仙台市青葉区川内41 東北大学 東北アジア研究センター 栗林 均


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