東北大学 東北アジア研究センター

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日本の植民地「支配現場」における主体性の研究

研究題目

日本の植民地「支配現場」における主体性の研究

研究領域

(E) 紛争と共生をめぐる歴史と政治

研究内容

  現在の東アジアにおける国際関係は、近代日本の植民地拡張の歴史を抜きにして論じることはできない。今日の対外関係には、単なる政治的・経済的・軍事的利害のみならず、過去の植民地主義や戦争に関する歴史認識が深く関わっている。これらの要素は周辺諸国の外交政策形成、ナショナル・アイデンティティの構築、さらにはメディア言説にも影響を及ぼしている。したがって、この背景を踏まえないで東アジアの国際関係を理解・分析することは困難である。
 従来の日本植民地研究は、主に入植者や行政官などの支配者側の視点から植民地の獲得過程や統治構造、政策の実態解明に焦点を当ててきた。近年は被支配者側の主体性や日常実践に接近する研究も展開されている。しかし、これらの議論はいずれも、日本史・中国史・地域史・民族史などのナショナル・ヒストリーの枠組みに回収されやすく、支配現場における地域的特殊性や、民族的多様性および諸政治的主体の関係性・複雑性が見落とされがちであった。
 本研究は、そうした従来の枠組みを乗り越え、「支配現場」に注目することで、植民地統治の重層的・相互作用的な実態の内在的解明を目的とする。具体的には、台湾、「満洲国」、朝鮮および東南アジアを研究対象に、支配者、被支配者、そしてその中間に位置する支配の仲介役(通訳、現地官僚、教育者など)といった多様な主体の関係性や主体性を実証的に分析する。これにより、地域ごとの政治的・社会的文脈に即した支配構造の多層性や、協力・交渉・抵抗といった力学を浮き彫りにする。さらに、「満洲人脈」を手がかりに、植民地の「支配現場」で形成された人的・知的ネットワークが、戦後のアジア地域においてどのように再編・再利用されたのかを検証する。こうした「支配現場」のネットワークの連続性に注目することで、冷戦後の国際関係やアジアの経済秩序形成に対する植民地期の遺産の影響を解明する。

研究期間

2025年度~2026年度

研究組織

氏名所属
張 小栄 東北アジア研究センター
呉 博皓北京大学歴史学系
史 方正文学研究科