東北大学 東北アジア研究センター

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沖縄の戦没者祭祀の位相に関する人類学的研究:家における祭祀を事例に

研究題目

沖縄の戦没者祭祀の位相に関する人類学的研究:家における祭祀を事例に

研究領域

(E) 紛争と共生をめぐる歴史と政治

研究内容

 本研究では、沖縄戦戦没者の慰霊祭祀の現状や継承について家単位の祭祀から検討することで、今日の慰霊祭祀及び戦没者の社会における位置付けを人類学的に探究する。沖縄を含む日本の戦没者慰霊の研究では、歴史学・宗教学・民俗学・社会学など様々な見地から、国家による神社祭祀と地域コミュニティ/家のレベルでの仏教寺院/民俗宗教的な祭祀の分析を通じ、慰霊の重層化が論じられた。しかし、戦後79年を迎え、本土日本では戦死者との世代が隔たるほど、地域社会の慰霊も変質し、多くの施設が無縁化する傾向を示すことから、「戦争記憶」の継承困難が課題化される。沖縄では、戦跡観光の発展を通じて慰霊碑は重要なメディアと位置付けられながらも、本土日本同様多くの施設で管理困難が生じている。しかし1995年の「平和の礎」(太平洋戦戦没者個人名を刻んだ波状の石板)完成後、慰霊碑を墓とみなして墓参する行為が広く見られるようになった。また集落レベルの慰霊碑では、遺骨のない死者の年忌供養が地域ではなく家レベルで行われることもある。沖縄の祖先祭祀研究では死後33年の弔い上げの後、位牌は処分するなどして死者の没個性化が図られると指摘される。しかし33年経てなお続く戦没者の祭祀行為の背景にあるのは、ユタ等の宗教的職能者が介在しつつ死者をアクチュアルな存在とみなして祭祀によって家の安寧が求められることに加えて、新規慰霊碑の建立といった記憶媒体の増加により慰霊を促し、死者の個性を維持する側面があることが予想される。そこで家ごとの戦没者に対して1)33年忌前後の祭祀の変化、2)位牌・墓・慰霊碑などのモノ・メディアを対象とした祭祀の現状に関する参与観察や聞き取り調査を行うことで、これまでの国家/地域コミュニティレベルでの祭祀を通じた「死者を記憶する共同体」形成の議論に対し、「個性化する戦没者」の様相を明らかにしながら社会における慰霊祭祀の位置付けを論じる。

研究期間

2024年度~2025年度

研究組織

氏名所属
越智 郁乃文学研究科
高倉 浩樹東北アジア研究センター