東北大学 東北アジア研究センター

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戦争記憶の国際的比較研究

研究題目

戦争記憶の国際的比較研究

研究領域

(E) 紛争と共生をめぐる歴史と政治

研究内容

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、アジアでは中台戦争の可能性が論じられ、日本においても中国を仮想敵とする議論の隆盛が見られる。一方、終戦後80年を目前にしながら、日本国内では戦争のトラウマが社会に与える長期的影響が議論されるなど、戦争記憶が社会的、文化的に再活性化しているといえよう。これまでの戦争記憶研究は、生存者への聞き取りや体験的な記憶の保存が緊要であるとされてきた。だが、昨今の現象は、記憶(特にトラウマ記憶)が世代間で継承され数十年を経た後に蘇るという特徴を、社会的に追究しなければ理解することが難しい。そういった記憶は、個人的でありながら、時間を経て地域で共有され、集団のアイデンティティを形作っており、それゆえ政治によって左右され、国際関係の中で忘却と想起を繰り返すケースもある。歴史は戦争を画期として書かれてきたが、裏を返せばその内容はトラウマの連続であったと捉えることもできよう。
本研究は、このような戦争記憶と社会や歴史の関係を、歴史学や文学といった文化論的研究と、精神分析や心理学といった人間の内面を論じる研究とが協働することで解きほぐしていく。近年の記憶研究は、「集合的記憶」(M Halbwachs)、「文化的記憶」(A Assmann)、「選択されたトラウマ」(V Volkan)といった概念からヒントを得てきたが、これらに共通しているのは、個人的な記憶が社会で広く共有される仕組みやプロセスを論じる点である。戦争記憶について考えるなら、トラウマの世代間継承を論じる必要があるだろう。本研究では文学、歴史学そして心理学を専門とし、日本、中国、ベトナム、ロシア、東欧地域を対象とする研究者が集まり、それぞれの専門的視点から地域の歴史や戦争記憶の特徴を論じつつ、異分野間の対話と国際的な比較によって、この問題に取り組む。まずは5名の研究者によってスタートするが、過去の加害・被害の対話の可能性を探るため、アジアの他国やロシア・東欧の研究者の参加も見込んでいる。将来的には国際的な戦争記憶の共同研究を行うプラットフォームを形成していきたいと考えている。

研究期間

2023年度~2026年度

研究組織

氏名所属
石井 弓東北アジア研究センター
今井 昭夫東京外国語大学
越野 剛慶応大学
田村 容子北海道大学
村本 邦子立命館大学