研究題目
鳴子火山火口湖・潟沼の火山活動調査
研究領域
(A) 環境問題と自然災害
研究内容
宮城県北西部に位置する鳴子火山の潟沼は,東西400m,南北300m,水深20mほどの火口湖で,1kmほど北側には鳴子温泉街が広がる.鳴子火山は直径約 7kmの不鮮明な輪郭をもつカルデラとその中央部の溶岩ドーム群から成り,837(承和4)年の水蒸気噴火を含め,過去1万年間に5回の噴火が,いずれも潟沼付近で起こったと推定されている.鳴子火山は気象庁の常時観測火山に含まれないが,人里から近く,地域防災の観点からも活動監視は重要である.火山活動に伴う熱流量は活動度評価の指標の一つになり,潟沼では過去に,水温観測から熱流量が見積もられている.その中には,本センターの元教員によるものも含まれている(Shikano et al., 2004).
2021年に同様の調査を行ったところ,総放熱量は過去より一桁以上小さく見積もられ,鳴子火山の活動低下が疑われた.その真偽を確かめるために2022年に再度調査したところ,総放熱量は過去と同程度と判明する一方で,過去には報告されていなかった,深さ方向に温度や組成が異なる複数の水の層が確認された.この水は潟沼の中で湧出していると考えられるが,過去に報告がないことから,この20年ほどの間に新たに湧出した可能性がある.また,真偽の程は定かでないが,湖畔レストハウスのご主人によると,温泉街が賑わう観光シーズンに潟沼の水位が下がる傾向にあると感じるという.これが事実なら,潟沼の水収支が麓の商業活動に影響されていることになり,大変興味深い.
我々は2020年からの共同研究で,蔵王山の火口湖・御釜において,水温だけでなく,気象観測,水位連続測定,水中溶存イオン濃度測定などにより,水・熱・化学収支を推定し,御釜の火山活動度評価を行ってきた.潟沼でも同様の解析を行い,それぞれの収支を推定することで,潟沼,ひいては鳴子火山の活動変化を捉えるとともに,温泉利用と水位変動の関連を検証する.研究期間中に明瞭な活動変化がなかったとしても,得られたデータは将来の比較材料となり,観測が手薄な鳴子火山においては,地域防災に資する貴重な記録になると期待される.
研究期間
2023年度~2025年度
研究組織
氏名 | 所属 |
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後藤 章夫 | 東北アジア研究センター |
知北 和久 | 北海道大学北極域研究センター |
岡田 純 | 気象研究所火山研究部(仙台分室) |