東北大学 東北アジア研究センター

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海産生物の多様化を促す海洋島の効果: 固有系統をもつ潮間帯性巻貝をモデルとして

研究題目

海産生物の多様化を促す海洋島の効果: 固有系統をもつ潮間帯性巻貝をモデルとして

研究内容

本研究の目的は海産生物の遺伝的分化、ひいては種多様化に対する海洋島の効果の検証である。出現以来、一度も陸地と接したことのない海洋島は、特に陸上生物において独自の進化を遂げた固有の種群が多く知られることから「進化の実験場」と称される。一方で明瞭な物理障壁を欠く海域においては、海水を介し集団間に交流の機会が頻繁に生じるため、遺伝的分化・種分化が進行しづらい。そのため陸域と比べると固有種は少なく、その多様性は見過ごされている場合が多い。

これまで申請者らは、日本を含む東アジア海域に産する潮間帯性の巻貝類を対象に、その遺伝的分化、種分化メカニズムの解明に取り組んできた。その過程で、伊豆諸島のような比較的大陸に近接した海洋島においても、遺伝的に区別できる固有系統が存在することを捉えた(Yamazaki et al. 2017 Marine Biology)。伊豆諸島や小笠原諸島を含む日本沿岸に分布するイシダタミ属巻貝の1種であるクビレクロヅケは、日本列島と琉球列島で系統分岐したのち、小笠原諸島だけでなく伊豆諸島において固有系統を創出したことが示唆されている。クビレクロヅケのように、生活史初期にプランクトン幼生として分散する海産無脊椎動物において、本州にほど近い伊豆諸島における遺伝的分化が生じる例はほとんど知られておらず、そのメカニズムは不明である。

そこで本研究では、伊豆諸島・小笠原諸島に固有系統のクビレクロヅケをモデル系として、海産生物の遺伝的多様化に対する海洋島の効果を明らかにする。申請者らが既に取得済みの標本、および追加のサンプリングで得られた標本に基づき、分布域を網羅したサンガー法による遺伝的解析・集団ゲノミクス解析(ddRAD-seq法)を実施する。得られた成果は、これまで充分理解されていなかった、比較的陸地に近接した島嶼部が潜在的にもつ海洋生物の多様化機能を示す。またこれまで伊豆諸島や小笠原諸島といった海洋島の生態的価値は主に陸域が重視されていた。そのため、本研究は伊豆諸島・小笠原諸島の海洋生態系の独自性・固有性を示すという観点から、東北アジア地域研究においても重要な意義を持つ。  

研究期間

2021年度~2021年度

研究組織

氏名所属
山崎 大志東北アジア研究センター
池田 実東北大学大学院農学研究科附属女川フィールドセンター
千葉 聡東北アジア研究センター