東北大学 東北アジア研究センター

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公開講演会 「ロシアによるウクライナ侵攻を契機に庇護希望者・難民を考える」についての報告記事

 2024年2月10日に東北大学片平さくらホール(ハイブリッド開催)で、ウクライナ侵攻にかかわる難民・庇護希望者に関する法学的アプローチからの公開講演会が、岡洋樹氏の司会で行われた。

 最初の登壇は、岸見太一氏(福島大学准教授)による「カテゴリーから考える:<難民>へのステレオタイプはどのように構築され、どのように作用するのか」であった。政治哲学を専門とする岸見氏は、社会における難民の言説と法的用語の間の齟齬を指摘し、ウクライナ難民事象が日本の多文化共生にもたらす影響を理論的に説明した。続く、安藤由香里氏(富山大学教授)「難民条約における難民とは誰か?」では、国際法の観点から自宅を失い別の都市に移動したとしてもウクライナ避難民や、戦争拒否のため国外を離れたロシア国民は難民と認定されないなど、難民が国家の制度と密接にかかわっていることが示された。三番目の坂東雄介氏(小樽商科大学教授)は、「日本版補完的保護のゆくえ」と題し、日本国内でのウクライナ避難者がどのように支援を受けられるようになっったのか、その法的手続きを解説するとともに、それを可能にした「補完的保護」概念が、元来の国連の難民弁務官事務所の考えとは大きなずれがあり、その意味を問うものだった。コメンテーターの小坂田裕子(中央大学)は、「福島第一原発事故による避難民は難民か?国際人権法上、どのような権利があるのか?」と題して、難民と避難民の制度の違いと支援必要の文脈の類似性について問うかたちで、難民・庇護希望者の問題が外国の話ではなく、日本でも考えるべき事象であることであり、ここから登壇者3名とともに総合討論が行われた。

 政治哲学・法学・国際法の立場からの講演と議論は、ウクライナ問題が対岸の事象として理解すべきものではなく、日本の制度や多文化共生にかかわる倫理とかかわっていることを訴えるものであった。個人的には岸見氏が述べていた「どのようなカテゴリー(難民)も人々の生きた経験をとらわれないが、にも関わらずそのカテゴリーを使わざるを得ない」という言葉が印象として残った。

 この講演会は、人間文化研究機構グローバル地域研究事業東ユーラシア研究プロジェクト東北大学拠点の共催事業であり、東北大学国際法政策センターが後援となった。参加者は50名弱と少なかったが、従来センターが接点を持たなかった法学分野との共同で地域研究をおこなっていくことの必要性と可能性を感じさせるものとなった。(高倉浩樹)