東北大学 東北アジア研究センター

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客員教授Donatas Brandisauskas先生の特別講演会を実施しました。

  2024年3月21日、東北アジア研究センター内で客員教授Donatas Brandisauskas先生による「Agreements with bears: Evenki reindeer herders and taiga conviviality」と題する特別講演会を実施しました。

  リトアニアのヴィルニュス大学に所属しているドナタス・ブランディシャウスカス先生は、長年にわたってシベリア各地でエヴェンキの人類学的調査を行ってきました。トナカイ狩猟牧畜民である先住民にとっては、クマは害獣であります。しかしながらエヴェンキの世界観では、クマと人の女性が結婚する異類婚姻譚に象徴されるように、森の主として特別視される関係であり、ヒトと霊的世界をつなぐ媒介でありました。

  先生の講義で、新たな民族誌事実として提示されたのは、先住民がクマを特別視しているものの、彼らはその存在を「種」ではなく、「個体」として認識していることでした。またクマのマーキングに類似するマーキングをヒトがすることでヒトが異種間コミュニケーションを仕掛けていました。一方で、家畜トナカイの体につけられたクマによる傷や、森林のキャンプではしばしばクマに襲われるなど、凶暴な害獣として側面があることが示されました。その上で、こうした害獣の個体は、「甘やかされた個体」と先住民によって認識され駆除されることが、クマとヒトとの関係において重要となっていることが提示されました。

  伝統的民族誌の世界観を彷彿とさせる民族誌的事実が提示されると同時に、ヒトとクマは異種間同士の関係ではなく、個と個の関係として見ることの必要性は新しい理論につながる可能性があります。さらにその関係にはトナカイなどほか動物もからんでおり、現代のマルチスピーチース人類学の観点とも絡むことが示唆されるものでした。

  参加者オンラインを含めて16名ほどが参加し、講演後には熱心な議論が展開されました。なお、この講演会は、人間文化研究機構の東ユーラシア研究プロジェクト東北大学拠点(センターマイノリティの権利とメディア研究連携ユニット)の第8回研究会として実施されました。(高倉浩樹)