東北大学 東北アジア研究センター

お問合せ
日本語 English

モンゴル災害人類学に関わる研究成果が国際誌の特集として刊行

東北アジア研究センターの高倉浩樹教授(大学院環境科学研究科兼務)等が企画した特集「モンゴルにおける政策関連環境災害と社会文化的インパクト(Policy-Related Environmental Disaster and the Socio-Cultural Impacts in Mongolia)」が、国際誌「Journal of Contemporary East Asia Studies」(Taylor & Francis)11巻1号(2022年9月28日)に掲載されました。

https://www.tandfonline.com/toc/reas20/11/1

 

 

この特集はモンゴルにおける極端気象現象・鉱山開発・森林草原火災に関わる災害の社会的文脈を歴史や現在のグローバル化のなかで明らかにするものです。人間文化研究機構北東アジア地域研究事業で行われたモンゴルと日本の研究者の協働による調査研究の成果です。

 

特集の構成は以下のようになっています。

- 「序論:モンゴル現代史のなかの環境災害」 (尾崎 孝宏・高倉 浩樹)  doi.org/10.1080/24761028.2021.2015837

- 「モンゴルとロシアの国境地帯での移動災害としての森林草原火災」 (風戸 真理・バトール ソヨルハム) doi.org/10.1080/24761028.2022.2113493

- 「モンゴルにおける鉱業と牧畜の共存の交渉」 (ビャンバジャフ ダライブヤン) doi.org/10.1080/24761028.2021.2021356

- 「社会主義モンゴルにおけるゾドと牧畜の産業化」 (冨田 敬大)   doi.org/10.1080/24761028.2021.2011554

 

 モンゴルの牧畜経済は、地域環境を利用しながら、伝統的に人々に生計手段と文化的アイデンティティを提供してきました。歴史的民族学的アプローチの重要性を否定するものではありませんが、環境災害に関する研究は、この牧畜がもつ回復力と脆弱性に関わるダイナミズムを理解するための有用な視点を提供します。最初の論文は、モンゴル現代史のなかでいかに政策に起因する災害が発生してきたか、またそのなかで生成された牧民の生活パターンとその変化がまとめられています。第二論文は、ロシアからモンゴルに移入する越境森林草原火災に焦点が当てられました。火災・煙害が中国・日本にも及ぶ広域的視点と、火の動き・家畜被害・行政や牧民の対応というミクロな視点を併せもつ防火の民族誌が提示されています。第三論文では現代中国の経済発展を支えるモンゴルの鉱山産業と地域社会の関係が明らかにされ、両者の長期的な信頼関係の構築の重要性が強調されています。最後の論文は、そうした現在の状況の背後にある社会主義時代の牧畜産業化が描かれており、その過程で進められた家畜の性別や年齢構成などの群れの構造への変化が、利益は生むが、ゾド災害への脆弱性を高めたと述べられています。