センターについて
本研究センターは、国立大学法人東北大学東北アジア研究センター規程第二条で「学内共同教育研究施設等として、東北アジア(東アジア及び北アジア並びに日本をいう)地域に関する地域研究を学際的及び総合的に行う」ことを目的として掲げている。その前身は1962年に設置された文学部附属日本文化研究施設であるが、1996年に日本・朝鮮半島・中国・モンゴル・ロシアを総合的に捉える地域研究を設置目的とした全国唯一の研究型組織(部局)として、また人文社会科学と自然科学による学際研究施設として発足した。東北(北東)アジア研究の大学設置研究所型組織としては日本で最大である。
センター長挨拶
東北アジア研究の課題の重心が大きく変わりつつあると感じている。従来その基軸は、ロシア・中国・日本などに跨がる環境問題の解決や経済交流を実現するための学際的知識を紡ぎ出すことにあった。今後は、この地域の過去と現在における対立・紛争・戦争の起源とその対応や解決への道筋というテーマが中心になるではないかと思うのである。それは、諸研究分野の問題意識や方法はもちろんのこと、学際的研究の枠組みにまで及ぶのではないかと考えている。
その理由は、2022年のロシアのウクライナ侵略にはじまる「戦争」にある。この出来事によって、対立のグローバリズムへと世界は変わった。すでに構造的な変化の兆しはあったが、それが不可逆的なものであることを決定づけたと言っても良い。欧米諸国は厳しい制裁を課し、これにロシアが反発する構造ができあがっている。外交は無論のこと、経済交流や学術交流も大きく制限されているのが現状である。加えて世界各地での紛争の顕在化が連動している。
私が関わっている北極研究はまさに冷戦崩壊によって可能となった学際科学であった。ソ連末期に、北極海環境問題解決のための国際的な協力のための制度とそれを支えるための科学委員会が整えられ、欧米諸国とロシアさらに日本や中国・インドなどが関わる体制ができたからである。これを基盤にして、その後、自然科学と人文・社会科学が共同し、気候変動の影響評価が行われるようになった。手前味噌になるが、フィールドを共有する文理連携研究の最も成功した例といえるかもしれない。しかし、2022年以降、北極は二つに分かれた。もはや従来のような学術の国際協力体制を復活させることは想像困難な状況になってしまった。人文社会科学の優先研究課題は、二極化された北極の安全保障や政治社会的な領域に移りつつある。自然科学もロシア抜きで観測・解析をせざるをえず、従来の研究のあり方が変わっていかざるをえない。
翻って考えてみると、東北アジア研究センターは1996年に発足し、その始まりは冷戦崩壊後による旧ソ連との交流開始がきっかけであった。ある意味で北極研究と類似した歴史的背景を持っている。すでに2022年以前から、ロシアや中国は権威主義国家としての認識されるようになっており、隣国理解としての東北アジア研究ということが我々自身の課題にもなっていた。おそらく今後はこの地域の平和共存へ資する学際的知識を発掘していくことがより一層重要になっていくだろう。
東北アジア研究センターの強みは、人文学・社会科学・自然科学の個々の専門分野において世界的に活躍する優れた研究者がいることだけでなく、彼らが文理を超えた学際的協力を実施してきたという点にある。この点は東北大学の中で我々の誇るべき点である。生物学と歴史学・考古学、人類学と水文学・地質学など枚挙にいとまがないが、その文理を含む学際的な研究成果は、国際的にも着目されている。こうした基盤のもとに、私たちは新しい東北アジア研究を発展させていかねばならないと思うのである。
2024年4月 センター長 高倉浩樹
理念と目的
本センターは、東北アジアという地域理解の枠組みを確立し、普及させることを第一の目的としています。東北アジア研究センターが設立された1996年以後の20年間は、まさに東北アジアが地域枠組みとして実質化していった時代だったと言えます。中国の経済発展と日本・韓国などの結びつき、ロシア、モンゴルのアジア太平洋国家としての再定義と東アジアとの関係構築、そして中国とロシアを中心とする関係調整機構の出現など、今やロシアのシベリア・極東、中国、朝鮮半島、モンゴル及び日本から成る東北アジアは、冷戦時代とは比較にならないほど密接な関係をもっています。北アジア、東アジアといった既存の地域概念では、現今の情況を捉えることができなくなっているのです。しかしわが国では、未だに日中・日露・日韓などといった二国間関係の枠組みでの理解を克服できておらず、日本が東北アジアの一部としてあることも充分に認識されているとは言えないのが実情です。東北アジア地域概念の確立は、わが国にとって急務であると言えましょう。
地域研究に求められるのは、実践性です。経済発展の中で、東北アジアは今急激な変化を経験しています。変化への戸惑いは、ときに深刻な亀裂を社会に走らせます。開発に伴う環境問題、民族の対立、歴史認識、領土問題などなど、亀裂の露頭はじつに様々な形で現れます。そのような課題を、広域的枠組みにおいて共有することが重要です。一方で東北アジア地域内では、すでに多くのものが共有されています。地域の文化的な価値をどのように評価し、何を残し、何を変えなければならないのか。正負の遺産にどのように向き合うのか。それが東北アジア地域研究に求められている課題です。特に重要なのは、研究者と地域住民の協働です。地域研究とは、学者が一方的に分析結果を提示するのではなく、地域住民が継承・創出しようとする文化のあり方をともに考えていくことです。
地域研究への要請は、けっして地域住民の社会・文化の領域にとどまりません。地域の山河も、そこに住む人々が生を営む、人間的な意味づけを与えられた「環境」としてあります。ですから「自然環境」の研究も、地域研究の対象にほかなりません。地域研究において学際性が要求されるのは、学問が細分化されているからではなく、地域「環境」の多様性とそれに与えられた意味の包括性に起因するのです。
それゆえ東北アジア研究センターは、文系・理系のさまざまな研究分野の連携によって、地域を見つめる多様な視座を確保することをめざします。我々は、高度に専門化し、分厚い蓄積をもつ諸学の成果を有しています。地域研究の学際性とは、専門研究の到達点を安易に否定することではなく、その蓄積を地域理解のために動員し、活用することです。文系・理系の研究者の連携を確保し、諸学がそれぞれの分野で東北アジアを考えることで、地域のより多様な課題を視野に収めることが可能となります。
また地域研究者にとって、地域の研究者達の研究成果と向き合いことなくして、研究は成り立ちません。我々が彼等を研究するように、彼等も我々を研究しています。我々には、東北アジアの研究者コミュニティーの一員として、そのような双方向性をもった東北アジア地域研究を進めていくことが求められています。
沿革
2023年7月 | 東北大学知識行動オープン・プラットフォーム Sustainability Open-Knowledge-Action Platform (SOKAP)に東北アジア研究センターが参画 | |
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2022年9月 | 東北大学知のフォーラム事業「Insights Into Human History in the Eurasian Stone Age: Recent Developments in Archaeology, Palaeoanthropology, and Genetics」 | |
2022年4月 | 受託事業・人間文化研究機構グローバル地域研究事業東ユーラシア研究プロジェクトにおける代表機関として東北大学拠点を形成 | |
2022年4月 | 上廣歴史資料学研究部門第三期設置(2027年3月迄) | |
2021年6月 | センター設置25周年記念公開講演会・国際シンポジウム開催 | |
2020年6月 | 文科省補助事業・北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)に参画機関として参加(~2025年3月) | |
2019年12月 | 東北大学新領域創成のための挑戦研究デュオに「1万年間続く持続可能社会構築のための文化形成メカニズムの解明」(代表:佐野勝宏教授。2019-2024年)に採択 | |
2018年6月~2019年2月 | 東北大学知のフォーラム事業「Geologic Stabilization and Human Adaptations in Northeast Asia」 | |
2018年3月 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構・歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業・東北大学拠点運営委員会の参加 | |
2017年10月 | 指定国立大学東北大学災害科学世界トップレベル研究拠点事業に参画(2021年3月迄) | |
2017年4月 | 上廣歴史資料学研究部門第二期設置(2022年3月迄) | |
2016年4月 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構・北東アジア地域研究推進事業に参加し、東北大学拠点を設置(~2022年3月) | |
2016年4月 | 文科省補助事業・北極域研究推進プロジェクトに参画機関として参加(~2020年3月) | |
2015年12月 | センター設置20周年記念式典・国際シンポジウム開催 | |
2012年4月 | 上廣歴史資料学研究部門(上廣倫理財団による寄附)設置 2012年4月に東北大学防災科学研究拠点を解散し、東北大学災害科学国際研究所が創設 |
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2010年9月 | 東北アジア研究センターシベリア連絡事務所を、東北大学ロシア代表事務所シベリア支部に統合 | |
2009年11月 | 大学広報課及び文系所部局との協力の下での市民向け学術交流懇談会・リベラルアーツサロン運営開始 | |
2009年4月 | 公募型共同研究設置 | |
2009年4月 | コラボレーション・オフィス開設 | |
2008年4月 | 文科省科研費・特別推進研究「清朝宮廷演劇文化の研究」(2008~2012年度、磯部彰教授) | |
2007年10月 | センター内に東北大学防災科学研究拠点事務局を設置(平川新教授代表) | |
2007年 | 新運営体制構築 基礎研究部門(教員が属する以下の分野:ロシア・シベリア研究分野、モンゴル・中央アジア研究分野、中国研究分野、日本・朝鮮半島研究分野、地域生態系研究分野、地球化学研究分野、地域計画科学研究分野、環境情報科学研究分野、資源環境科学研究分野)、プロジェクト研究部門(教員が兼務しする形で組織化する時限付き・学際的・大型プロジェクト)、研究支援部門(学術交流分野、情報拠点分野) |
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2006年 | センター設置10周年設置記念式典 | |
2004年 | 国立大学法人化 | |
2002年4月 | 科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業「地雷探知用ウエアラブル・SAR-GPRの開発」(2002~2006年度) | |
2002年4月 | 文科省科研費・特定領域研究「火山爆発にともなう地表現象に対する新研究手法の開発と適用」(2002~2006年度、谷口宏充教授) | |
2001年 | センター設置5周年設置記念式典 | |
2000年4月 | 文科省科研費・特定領域研究「東アジア出版文化の研究」(2000~2005年度、磯部彰教授代表) | |
1998年5月 | 東北アジア研究センターシベリア連絡事務所をロシア連邦ノボシビルスク州アカデムゴロドク市に開設 | |
1996年5月 | 東北アジア研究センター発足 3基幹研究部門(地域交流、地域形成、地域環境)、2客員研究部門(文化・社会経済政策、資源・環境評価) |
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1996年5月 | 文学部附属日本文化研究施設廃止(前史) | |
1962年4月 | 文学部附属日本文化研究施設設置(前史) |
歴代センター長
第10代 | 高倉 浩樹 | 2024.4.1 - 現在に至る |
第9代 | 千葉 聡 | 2021.4.1 - 2024.3.31 |
第8代 | 高倉 浩樹 | 2017.4.1 - 2021.3.31 |
第7代 | 岡 洋樹 | 2013.4.1 - 2017.3.31 |
第6代 | 佐藤 源之 | 2009.4.1 - 2013.3.31 |
第5代 | 瀬川 昌久 | 2007.4.1 - 2009.3.31 |
第4代 | 平川 新 | 2005.4.1 - 2007.3.31 |
第3代 | 山田 勝芳 | 2001.4.1 - 2005.3.31 |
第2代 | 徳田 昌則 | 1999.8.1 - 2001.3.31 |
初代 | 吉田 忠 | 1996.5.11 - 1999.7.31 |
名誉教授一覧
佐藤 源之 | 令和5年 | |
瀬川 昌久 | 平成5年 | |
工藤 純一 | 令和3年 | |
栗林 均 | 平成29年 | |
磯部 彰 | 平成28年 | |
平川 新 | 平成26年 | (退職時の所属部局:災害科学国際研究所) |
菊地 永祐 | 平成21年 | |
谷口 宏充 | 平成20年 | |
山田 勝芳 | 平成20年 | |
入間田 宣夫 | 平成17年 | |
吉田 忠 | 平成16年 | |
宮本 和明 | 平成16年 | |
徳田 昌則 | 平成13年 | |
佐藤 武義 | 平成9年 |